2012年6月26日火曜日

気管切開を行うタイミングは重要な臨床アウトカムに影響を及ぼさない

The timing of the tracheotomy did not significantly alter important clinical outcomes in critically ill patients.




気管切開を行うタイミングは?早め?それともゆっくりめ?

Chest. 2011 Dec;140(6):1456-65. Epub 2011 Sep 22.
Wang F, Wu Y, Bo L, Lou J, Zhu J, Chen F, Li J, Deng X.




長期に人工呼吸管理が必要な重症患者さん(critically ill patients)には気管切開が行われます。いまどきは以前からの方法である外科的気管切開に替わって経皮的気管切開術(percutaneous dilatational tracheostomy, PDT)の方が主流なのでしょうか?

さて、今回紹介する論文は2011年にChestという雑誌に発表された気管切開を行うタイミングについてのレビューです。そもそもボクが若い頃(1990年代前半)には長期に挿管が必要と思われる場合には早期(挿管から1週間以内)に気管切開を行った方が良いと教科書に書かれており、事実そのように指導されましたが、その真偽のほどは?

2002年~2011年に発表された7つのランダム化コントロール試験(RCT)のメタ解析で1044人が含まれています。基礎疾患は熱傷・頭部外傷・内科的疾患・心臓血管術後など様々です。脳卒中の患者さんがこの中にどの程度含まれているのかは分かりませんが、いずれにしてもICUに入院している重症の方々です。

早期群では挿管からおおむね7日以内に気管切開が、晩期群ではおおむね2週間以上遅らせて気管切開が行われています。気管切開の方法はそれぞれのRCTによって外科的、経皮的、どちらの方法でも行っているものなどバラバラです。(Table 1




結果は、

短期死亡率に有意差なし(relative risk [RR], 0.86; 95% CI, 0.65-1.13; P=0.28)(Fig. 2)、長期死亡率にも有意差なし(RR, 0.84; 95% CI, 0.68-1.04; P=0.10)(Fig. 4)、人工呼吸関連肺炎(ventilator-associated pneumonia, VAP)の発症率にも有意差なし(RR, 0.94; 95% CI, 0.77-1.15; P=0.54)(Fig. 3)と各主要評価項目で早期気管切開と晩期気管切開で差はありませんでした。また、人工呼吸管理を要する日数・鎮静を要する日数・ICU入室期間・在院期間・合併症においても大差ありませんでした(鎮静を要する期間のみ早期気管切開群で有意に短縮)(Fig. 5-9)。








したがって、この論文の結論としては、「気管切開を行うタイミングは重要な臨床アウトカムに影響を及ぼさない。」ということでした。

ちなみにですが、2005年にBritish Medical Journal (BMJ)に発表されたメタ解析( BMJ. 2005 May 28;330(7502):1243. Epub 2005 May 18. Systematic review and meta-analysis of studies of the timing of tracheostomy in adult patients undergoing artificial ventilation. Griffiths J, Barber VS, Morgan L, Young JD.)では早期気管切開の方が良いという結論であり、2012年のコクラン・レビュー( Cochrane Database Syst Rev. 2012 Mar 14;3:CD007271. Early versus late tracheostomy for critically ill patients. Gomes Silva BN, Andriolo RB, Saconato H, Atallah AN, Valente O)では現時点では分からないという結論のようです。

総括してみると、最近のRCTのデータからは、気管切開をいつやっても死亡率・肺炎発症率に大きな違いは無さそうです。

経験的には、気管切開された脳卒中患者さんに経口摂取訓練を行おうとすると、そこには多くの困難が待ち受けていることはみなさんも御存知のとおりであり、脳卒中患者における至適な気管切開のタイミングってどうなのでしょう?

ボクはできるだけ気管切開せずに粘る派です。